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久留米絣を知る

220年の手仕事、世界に一つの布

220年、受け継がれてきた手仕事の布

久留米絣の布のクローズアップ - 藍と白の絣模様のテクスチャー

糸を括り、藍で染め、織る。

言葉にすればたったこれだけのことに、30以上の工程と、2〜3ヶ月の時間がかかります。

久留米絣(くるめかすり)は、福岡県久留米市を中心とした筑後地方で、220年以上にわたって織り続けられている綿の織物です。糸をあらかじめ部分的に括って染め分け、その糸を織り上げることで模様を生み出す「絣」の技法。日本三大絣のひとつであり、1957年に国の重要無形文化財に、1976年に伝統的工芸品に指定されています。

日本三大絣の中で、産地として今も残っているのは久留米絣だけです。広島の備後絣はデニムへ、愛媛の伊予絣はタオルへと姿を変えました。久留米だけが、220年前と同じ技法で、今日も布を織り続けています。

はじまりは、一人の少女の「なぜ?」

井上伝の発見 - 色褪せた藍染め布がほどかれた瞬間

1800年頃。久留米藩の城下町に暮らす12歳の少女、井上伝(いのうえでん、1788〜1869年)は、色褪せた藍染めの古着に白い斑点模様を見つけました。

「なぜ、ここだけ白いのだろう?」

伝は布を解き、糸を一本一本調べました。そして気づいたのです。糸の一部が何かの理由で染まらずに残ったところが、模様になっていることに。

この発見から、伝は糸を括ってから藍で染め、白い部分を残す技法を考案しました。それが久留米絣のはじまりです。

他の絣が東南アジアや琉球から伝来したのに対し、久留米絣は伝が独自に発明した、世界でも珍しい織物です。少女の好奇心から生まれた技法は、久留米藩の奨励を受けて急速に発展し、明治以降は庶民の衣服として全国で愛用されるようになりました。最盛期には年間200〜300万反が生産されていたと言われています。

伝は生涯にわたって技法の改良に取り組み、1869年に81歳で亡くなるまで、久留米絣の発展に尽くしました。

一人の少女の「なぜ?」が、200年以上続く伝統を生んだ。その物語は、今も私たちの手元にある一枚の布につながっています。

一枚の布ができるまで

久留米絣は、図案の作成から仕上げまで30以上の工程を経て完成します。そのひとつひとつに、職人の経験と技が必要です。ここでは、主な工程をご紹介します。

工程1: 図案・柄づくり

すべては、一枚の設計図から

経糸と緯糸の配分数、糸の伸縮率、絣糸の特性を考慮しながら、柄をデザインします。図案をもとに糸の配分を計算した「絵紙」、伸縮を踏まえて描き直した「下絵」を作成。長年の経験と知識がなければ、この最初の一歩すら踏み出せません。

工程2: 括り(くくり)

柄を決める、もっとも重要な工程

括り作業 - 職人が麻の繊維で糸を括る様子

図案に従い、染めたくない部分をアラソウ(麻の一種)で一か所ずつ固く括ります。染色中にほどけないように、しかし後で解くときには解きやすいように。この相反する要求を満たすには、熟練の技が必要です。

括りの精度が、完成する布の柄を決定づけます。久留米絣では、機械では出せない深い味わいを生むために、この工程は今でも職人の手で行われています。

工程3: 藍染め(あいぞめ)

「藍は生きている」

藍染め工程 - 職人が藍甕に糸を浸す様子

職人たちがそう語るほど、藍染めは繊細な工程です。タデ科の藍を乾燥させ、水を加えて3ヶ月ほど発酵させた「すくも」を原料に、木灰汁や貝灰を加えて2〜3週間かけて染液を建てます。

括った糸束を藍甕に浸し、引き上げ、空気に触れさせて発色させる。この作業を何十回と繰り返します。薄い藍液で何度も染め重ねることで、色落ちしにくい深い藍に仕上がります。

茶色い藍液が空気に触れた瞬間、鮮やかな藍色に変わる——その様子は、まるで魔法のようです。

工程4: 糸解き(かすりとき)

模様が現れる瞬間

染め上がった糸束から、括っていた部分をほどきます。すると、括られていた部分だけが白く残り、藍と白の染め分けられた糸が現れます。この瞬間、図案で描いた模様が糸の上にはじめて姿を見せます。

工程5: 織り(おり)

100年前の織機が、今日も動いている

織り工程 - ヴィンテージのシャトル織機で織る職人

経糸と緯糸の柄を合わせながら、丹念に一段ずつ織り上げていきます。産地では、100年ほど前に開発されたシャトル織機が現役で使われています。現代の革新織機より織りのスピードがゆるやかなため、柔らかな風合いの生地を織ることができます。

手織りの場合は、投げ杼(なげひ)で緯糸を通し、筬(おさ)を手前にトントンと打ち込む作業を繰り返します。綜絖の高さ、足の踏み加減、筬の打ち具合——すべてが最終的な布の質を決めます。

そして、この織りの工程で、久留米絣ならではの現象が起こります。

工程6: 仕上げ

自然の光と風で、布が完成する

仕上げ工程 - 久留米絣の反物が屋外で天日干しされている様子

糊を落とすためにぬるま湯に浸け、水洗いした後、竿にかけて天日でじっくり乾燥させます。多くの工程と人の手をかけてつくられた布が、自然の風にたなびく姿。そこには、時間をかけた手仕事だけが持つ、穏やかな美しさがあります。

同じものは二つとない——その理由

同じ柄の久留米絣を並べた写真 - かすれの違いが見える

「絣(かすり)」という名前は、模様の輪郭が「かすれて」見えることに由来します。

これは欠点ではありません。久留米絣の最大の特徴です。

あらかじめ括って染め分けた糸を織機にかけると、織りの過程で糸がわずかに動きます。このごくわずかな動きによって、模様の輪郭に自然な「にじみ」が生まれます。機械で均一に印刷されたプリントにはない、有機的で温かみのある表情。

visvimの創設者、中村ヒロキ氏はこう語っています。「絣の柄が持つ滲みやズレは不均一で有機的な味わいがある。」

この糸の動きは完全にコントロールすることができません。だから、同じ図案で、同じ糸で、同じ織機で織っても、まったく同じ布は物理的に生まれないのです。

世界に一つだけの布。

それは、マーケティングの言葉ではありません。久留米絣の物理的な事実です。

あなたの馬が世界で唯一の存在であるように、この布も世界に一つだけ。Cloud Nineが久留米絣を選んだ理由は、ここにあります。

自然が生んだ、暮らしを守る機能

久留米絣の伝統的な染料である天然藍には、美しい色だけでなく、暮らしに役立つ機能が備わっています。何百年もの間、日本人の生活を支えてきた藍の力をご紹介します。

藍染めで染まった職人の手

抗菌

菌を増やさない、穏やかな力

天然藍に含まれるトリプタンスリンという成分には、抗菌作用があることが研究で確認されています。「殺菌」ではなく「抗菌」——菌を殺すのではなく、増殖を抑える穏やかな働きかけです。

戦国時代、武士は藍染めの下着を身につけて戦場に臨みました。傷口に藍の布を当てると化膿しにくいことを、経験的に知っていたのです。

防虫

虫を寄せつけない、先人の知恵

江戸時代、農民は田畑の仕事に藍染めの着物を着ていました。虫やヘビを寄せつけない効果があることを、暮らしの中で実感していたからです。

古代エジプトでは、ミイラに藍染めの麻布が巻かれていたことが確認されています。4000年前から、人々は藍の力を活用してきました。

UVカット

紫外線から守る

藍染めの布には、紫外線を遮る効果があることが学術研究で確認されています。屋外での活動が多い暮らしに、自然の力で寄り添います。

経年変化

使うほど、美しくなる

久留米絣の綿布は、洗うたびに柔らかく、肌に馴染んでいきます。藍の色は、革のように美しく変化していきます。色あせではなく、味わいの深まり。

10年、20年と使い込むことで、あなただけの風合いが生まれます。新品が一番美しいのではなく、時間とともにもっと美しくなる。それが、藍染めの綿布の魅力です。

JAPAN BLUE

世界が認めた、日本の青

明治時代に来日したイギリス人化学者ロバート・ウィリアム・アトキンソンは、日本各地で目にする藍色に驚き、「JAPAN BLUE」と名づけました。

寒色でありながら温かみを感じる藍の色は、今も世界中の人々を魅了し続けています。

守り、つなぐ——伝統のいまとこれから

カラフルな現代の久留米絣製品のモザイク

最盛期には年間200〜300万反が生産された久留米絣。しかし、戦後の洋装化、安価な合成染料の普及により、需要は激減しました。

かつて何百人もいた職人は、現在ではわずか数人。手織りの技術を持つ職人は、本当に限られた人数しかいません。日本三大絣のうち、産地として存続しているのは久留米だけです。

しかし、久留米絣は消えていません。

若い世代の織元が新しい柄に挑戦し、スニーカーやバッグなど現代の暮らしに溶け込む製品が生まれています。世界的なファッションブランドが久留米絣に注目し、コラボレーションを行う動きも出てきました。

伝統を守ることは、博物館に閉じ込めることではありません。暮らしの中で使い、楽しみ、その価値を次の世代に伝えていくこと。

久留米絣を手に取っていただくこと、それ自体が、220年の伝統を未来へつなぐ一歩になります。

馬を愛する人のための、久留米絣

Cloud Nine 久留米絣製品 - 馬モチーフのポーチとチャーム

Cloud Nineの創設者Yokoが久留米絣と出会ったとき、直感的に思ったことがあります。

「この布は、馬のいる暮らしにぴったりだ。」

藍の持つ防虫効果は、厩舎や馬場で過ごす時間に寄り添います。抗菌作用は、馬との暮らしに欠かせない衛生面をサポートします。そして何より、使い込むほどに柔らかく美しくなる性質は、馬と長い時間を共に過ごす人の暮らしに、自然に溶け込みます。

久留米絣の「同じものは二つと作れない」という物理的な特性は、Cloud Nineの想いそのものです。あなたの馬が世界で唯一の存在であるように、あなたの持つCloud Nineの製品も、世界にたった一つ。

Yokoは、久留米絣の職人が織った布に、馬の刺繍やにんじんチャームを一つひとつ手作業で加えています。伝統の布が、馬を愛する人のための特別なアイテムに生まれ変わる瞬間。それがCloud Nineのものづくりです。

馬好きのための上質な小物が、日本にはほとんどありません。だから、自分で作ることにしました。220年の伝統と、馬への想い。その二つが出会って生まれたCloud Nineを、ぜひ手に取ってみてください。

久留米絣を、手に取ってみませんか?

ホースメッセ2026への初出店が無事に終了しました。新作は一点一点手作りしており、出来上がり次第Instagramでお知らせします。久留米絣の質感や新作は、Instagramでご覧ください。